
数時間後、ライアンは子犬を抱えたままレンジャーステーションへ向かいました。レンジャーたちは驚きながらも子犬を毛布で包み、体を拭いてくれました。ライアンが熊の話をすると、ひとりのレンジャーが顔を曇らせて言いました。
「この辺りに母グマがいたんです。数日前、川で子グマを流されてしまったそうです。たぶん……この子を自分の赤ちゃんと勘違いしたんでしょうね。」
ライアンは窓の外の霧を見つめました。説明はつくけれど、ただの偶然とは思えませんでした。母親の本能か、あるいは“愛”だったのか――彼にはそうとしか思えなかったのです。
子犬はすぐに元気を取り戻しました。ライアンはその子を「コーディ」と名づけました。ふたりは今もいつも一緒です。数ヶ月後、再びあの森を訪れたとき、コーディは木々の間を見上げて、耳をぴくりと動かしました。ライアンは微笑みながらささやきます。「ありがとう、ママ・ベア」。
野生の中に潜む優しさ――それは、恐れと紙一重のところにあるもの。ライアンはあの朝、命が命を思いやる瞬間を確かに見たのです。
